明日の仕事にきく。読めば俄然やる気になる ビジネスキーパーソンwebインタビュー

ロフテー株式会社
代表取締役専務
磯貝俊介

●磯貝俊介(いそがい・しゅんすけ)ロフテー株式会社代表取締役専務。1959年生まれ。早稲田大学在学中から大手企業でバイトし、そのまま82年入社。90年退職し、アメリカに留学。95年サンフランシスコ州立大学でMBAを取得後、 家業であるロフテーに入社した。
ロフテー(株)webサイト:http://www.lofty.co.jp/

第5回 前編

苦境を乗り切り「枕専門店」で成功

心地よい睡眠を提供したい
まず、会社の現状をお聞かせください。

磯貝氏: 枕専門店の「枕工房」が国内に78店舗あります。海外では、韓国5店、台湾1店、シンガポール2店、香港1店、タイに1店で、中国を次に考えています。取り扱っているのは、7000円のものから琥珀(こはく)を使った52万5000円のものまで約7000アイテムあります

えっ!そんなに高いものまであるのですか。なぜそこまで枕にこだわったのですか?

磯貝氏: 心地よい睡眠を提供したいというポリシーを持って長年寝装具の問屋を営んできました。快眠を突き詰めていくと、その要因の7割を枕が占めていることがわかってきました。それで思い切って枕に特化しようと考えたのです。

父親の言葉で家業を継ぐ決意
磯貝さんは、家業である今の会社に入られる前に、一般の会社に就職されていますが、どうしてそちらを選んだのですか。

磯貝氏: 大学1年の時、先輩に誘われ旅行案内のビラを配るバイトを始め、4年になると、その会社の旅行カウンターで旅行販売の仕事をしていました。やればやるほど認められる社風に魅力を感じ、卒業後そのまま入社しました。とても好きな会社でしたから骨を埋めるつもりでいました。

そんなに好きだった会社を退職する決意をされたのはどうしてですか?

磯貝氏: 父親は直接的な言葉で戻って来いとは言わないで、経営の勉強はいいぞと言うのですよ。それでだんだん経営に興味を持ちました。そして家業に戻る前に、経営を学びにアメリカに留学しました。(留学時のエピソードは後編でお伝えします。)

バブル崩壊の影響で苦境に
帰国後、会社の経営に携わっていかれるわけですね。

磯貝氏: はい。しかし、帰国すると会社の様子がなんだかおかしいのです。帰国したのが95年のことですから、バブル崩壊後いろいろな会社にその後遺症が出始めたときです。当社もご多分に漏れず事業が大変だったのです。

今後、会社をどうしていったらよいのか、毎週土日は弁護士と相談です。筆舌に尽くしがたい体験です。一度でたくさんです。寝装具の卸では市場自体も減少しているし、将来はないと思っていましたので、色々と検討した結果、うちの取り扱っている商品の中でも最も支持のあった「オンリーワン・アイテム」、しかも一番睡眠を左右する「枕」に専念しようと決めたのです。

その苦しい時期にくじけそうになったことはありませんでしたか?モチベーションをどのように維持されていたのですか?

磯貝氏: とにかく人と会っていました。時間と人脈はお金に変えられないほどの価値があると思っていますから、昔から人脈作りを大切にしていました。特に異業種の人と触れ合っているとマイナス発想がプラス発想に転じるのです。過去のことはくよくよ考えても始まりません、これからどうするかが重要です。異業種の人に会うことにより、そのことを学びました。

磯貝さん流の人脈作りのコツを教えてください。

磯貝氏: 肩書きがない時に人脈を作るのは大変ですよね。でも、そのころの人脈は、ずーと続くものです。私が心がけていたのは、お会いした時、いかに印象を残すかでした。どこかに共通のポイントがないか探しそれを突き詰めて話す。服装で気になるところがあれば、そこを突く。例えば「そのネクタイの柄、面白いですね、どこでお求めになったのですか?」というように。さらに、ハガキや手紙は効果的です。特にデジタルの時代ですから、アナログがいいですよ。手書きの手紙。すると印象に残り、紹介の紹介でいろんな人にお会いすることができたのです。

なかなか理解してもらえない「枕専門店」
寝装具の卸から枕専門店への転換にご苦労はありませんでしたか?

磯貝氏: 当時、我々の主力は寝装具のギフトセット卸だったのです。特別な営業をしなくても売れていました。だから、従業員からはまったく理解されませんでした。「何言ってんの?」という感じでキョトンとしていました(笑)。ただ、このままでは本当に潰れてしまうという危機感が私にはありましたから、絶対に業態を変えると決意していました。

店舗を出すに当たり、百貨店さんの反応はどうだったのですか?

磯貝氏: 百貨店さんにも理解してもらえないだろうと思っていましたから、仲の良い百貨店から説明に行きました。1社目の百貨店役員さんにプレゼンテーションに行くと、「うーん、快眠というテーマは良いが、枕だけではねえ。寝具全部のほうが良いのでは?」と言われました。そんなときに活きたのが人脈でした。トップに話しにいけるので決定のスピードは断然早いですから。結果、2社目で話がまとまりました。この時、時間と人脈はお金に変えられないと実感しました。

それで、枕専門店「枕工房」の1号店の出店が決まったわけですね。

磯貝氏: はい、96年4月に当時の新宿小田急ハルクさんに1号店をオープンしました。その後、うちの枕がテレビで取り上げられ、ある女優さんが「この枕気持ちいい!」と言ってくれたのです。もうその後は、大変でした。うちの枕は、身体を計測してから販売しますから、接客にお時間をいただいています。たった5坪しかないお店に50人〜60人並び、20時閉店にもかかわらず17時には受付けを締め切らなければいけない状況でした。売り上げも5坪で月に2000万円に上る大繁盛でした。

眠りは、量ではなく質
今後はどのような展開をお考えですか?

磯貝氏: 06年に「枕工房」は10周年を迎えます。その間に、うちを真似る店が現われては消えていきました。当社が10年やってこられたのは、「たかが枕でもこだわり続けた」ことにあると思います。ですから今後も、よりよい快眠を提供できる枕を研究していきます。また、現在好調なフルオーダーのお店の拡大や、お客様にあうサイズ、お客様にあう素材を提供するべく品揃えも増やしていくことを検討しています。

なるほど。せっかくですから良い眠りに必要なことを教えてください。

磯貝氏: 眠りは量ではなく質です。眠りの質は入眠と呼ばれる寝入りの30分で決まります。最初の30分が良ければ、その後のサイクルも良くなります。それには、眠りの7割を左右する枕選びが重要です。自分にあった高さ、形、素材を吟味されると良いと思います。ピローフィッター(枕アドバイザー)に相談されるのもひとつの手です。うちでは、相談だけでしたら無料ですから(笑)。

身長2mのボスに教わったコミュニケーション
アメリカ留学時の磯貝氏の経験などをお届けします。